からあげ博士の日常と研究と

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シネマレンズの光学系を味わう、SIGMA 40mm F1.4 DG HSM | Art

 こんにちは。からあげ博士(@phd_karaage)です。およそ半年ぶりくらいにブログを書く、というかようやく書けるような状況になってきたというのが正しいでしょうか。そんな久々に書くブログ記事は、新たに手に入れたレンズの話です。

 今回入手しこのブログで紹介するレンズは自身で購入する2本目のEマウントレンズ、そして現在自分が所有している唯一のEマウントレンズだったりします。普段格安で入手できるAマウントレンズの沼にどっぷり浸かっている私は、唯一のEマウントレンズにどういったレンズを選んだのでしょうか。

目次

40mmの誘惑

 冒頭の画像に示した通り今回購入したのはSIGMA 40mm F1.4 DG HSM | Artというレンズ。40mmという焦点距離というのはいわゆる王道の焦点距離ではなく、単焦点レンズを揃えるとしたら、広角側から28mm→35mm→50mm→85mm→135mmと進んでいくのが一般的なような気がします。標準の50mmの画角よりも広く、広角の35mmよりも狭い、なんとも中途半端な焦点距離といえばその通りでしょう。

 しかし、この40mmレンズを購入する前から私にはこの40mmの画角がしっくりくる。そういった確信があったのです。その理由はAPS-C一眼レフを使っていたときに、28mm/2.8のレンズを常に相棒として使っていたから。換算42.5mmの画角がこれまで写真を撮ってきたなかで一番しっくりくる画角だったのです。

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 大変気に入って使っていた28mmのレンズですが、フルサイズで使ってみるといまいちしっくりこない。今まで標準域として使っていたレンズが急に広角になるのだからそれも無理もない話。

 という訳で自分にとっての標準、35mm~45mm周辺でなにかいいレンズがないかと漁っていたのでした。

巨大な鏡筒、狂気の1.2kg

   果たしてこのレンズを標準レンズとして入手した人はどの程度いるのだろう。そう思わせる風格です。現在販売されているSIGMAの単焦点レンズのうち、Eマウント対応のものの中では105mm/1.4のレンズに次いで大きいサイズ。メーカー公称重量は1260gと標準域の単焦点レンズの中では、レンズが高性能化してきた現代においても「狂気」と言わざるを得ないような重量であることは確かです。

 Eマウント対応の40mmレンズは他にも存在していますがその中でも最も重いのは言うまでもないでしょう。

 Artレンズではあるものの、以前紹介した24mm F1.4 DG DN | Artとは異なり、世代的には一眼レフ時代のレンズになっています。それゆえバイワイヤによるフォーカスではなく、フォーカスリングとフォーカスレンズがダイレクトに接続されており距離表示窓があります。Aマウントレンズ然り、DG HSM世代のレンズ然り、距離表示窓があるレンズに安心感のようなものを覚えてしまうのは気のせいでしょうか。

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 当然のことながら、バイワイヤでフォーカスレンズ群を操作するほうが設計上、そしてAF速度の観点で有利でしょうから距離表示窓が最近のレンズにないなんて!と懐古厨よろしく嘆き悲しむべきではないでしょう。

 レンズマウント裏側には発売年下三桁を示した「018」の刻印があります。そして側面にはAF/MFの切り替えスイッチが。基本的に自分はMFで操作しています。その上には誇らしげにMADE IN JAPANの文字。SIGMAのレンズはすべて福島県の会津工場で作られているようです。

シネマレンズの光学系をそのまま移植?

 自分が所有するα7Rに装着するとこのような感じ。LA-EA5を用いてAマウントレンズを装着してもここまでの大きさになるレンズはそうそうありません。さながら望遠レンズでも装着しているかのような見た目になります。実用的なサイズかと言われるとなかなか難しいところではあります。これでスナップを撮りに行くというのはある種の修行めいたものを感じます。

 なぜこのようなサイズになっているのか、それは光学を最優先に設計したレンズであるということが理由の1つに挙げられるでしょう。Artラインのレンズ自身設計思想として光学設計を最優先し、解像、ボケ味を求めるのは当然として、シネマレンズはスチルレンズ以上にこれらの性能を要求してくるものであるというのは容易に想像できます。このレンズは同一の光学系を持ったシネマレンズ、SIGMA FF High Speed Primeラインの40mm T1.5 FFの描写と共通したものを持っていると考えることができるでしょう。

 他のDG HSM世代のArtレンズにおいてはスチルレンズの要求に則って設計されたレンズであり、その光学系がFF High Speed Primeラインのシネマレンズに移植されたと考えられますが、このレンズに関してはシネマレンズの設計をスチルレンズに持ってきたものであることが、Webページから暗に匂わされています。

プロの映像作家が使用するハイエンド・シネレンズは、画面を縦横無尽に移動する被写体の撮影や、パン、ティルトといった操作を前提とするため、画面全域で均一かつ高性能という、まさにArtラインのコンセプトである「光学性能最優先」の設計が求められます。SIGMA 40mm F1.4 DG HSM | Artはシネレンズとして要求される画角と性能を前提として開発をスタートさせた初めてのレンズです。「映像制作用プロフェッショナル機材」という新たな視点が、写真用レンズとしての性能にもブレイクスルーをもたらしています。*1

 あくまで推測であるものの、このレンズに関しては発売時期などからシネマレンズの設計に端を発して、スチル用Artレンズとして光学系を移植したものであるのでしょう。

 それゆえと言うべきか、この大きさ重量でも「仕方ないよね」「嫌なら使うな」と言えるサイズ感となったのではないかと考えられます。そんなレンズがどのような描写を見せてくれるのでしょうか。

とにかく高解像な写り

α7R + SIGMA 40/1.4 DG HSM| Art SS:1/2000, F:2.0, ISO:100

 近年のレンズは昔のレンズと違って、絞りは被写界深度を変えるためと言われることがありますがそれを実感することができるレンズかなと。自分はMFをする際にピント面を拡大することが多々ありますが、ピント面のシャープさは抜群。諸収差はかなり抑えられていてふわふわとした描写になることはまずないです。

α7R + SIGMA 40/1.4 DG HSM| Art SS:1/125, F:1.4, ISO:500

 こうした写真を撮った場合白色の文字の淵にフリンジが出ることがありますが、このレンズではそういったフリンジが出てくる気配はありません。色収差が要因となって出てくるものですから、Artレンズとしてそういったものを徹底的に排除しようという思想を感じます。もっともこういったものを撮った時、一定の写真らしさを感じるもので、真にレンダリング文字か?と思うところまではいきません。そういう意味で真に驚いたのは同じくSIGMA製の 24mm F1.4 DG DN | Artのレンズでしょうか。

α7R + SIGMA 40/1.4 DG HSM| Art SS:1/5000, F:4.0 ISO:100, Capture One 22現像

 誰かによる雪上落書き。跳ねているうさぎでしょうか。雪の少し凍った質感がしっかり描写されているように見えます。

α7R + SIGMA 40/1.4 DG HSM| Art SS:1/3200, F:5.6 ISO:100, Capture One 22現像

 雪繋がりで、こちらは秋田県森吉山の樹氷。雪が見たいという3月まで所属していたラボのポスドクの要望に沿って、秋田に旅行した時に撮影したもの。細かな枝がしっかり解像しているのは当然として画像全面に渡ってシャープであること、そしてこのときの空気感のようなものまで描写できているのではないでしょうか。

α7R + SIGMA 40/1.4 DG HSM| Art SS:1/200, F:1.4 ISO:100, Capture One 22現像

 高解像なレンズにおいて、そのレンズの持つボケ味というのは固くなりがちとよく言われるところであり、設計段階においてその相反する性能をどうするかは悩みどころであるという話がよく出てきますが、このレンズにおいてはそのボケ味も極めて良好であると言えるでしょう。高解像ゆえに、写してほしくないものまで写ってしまうというのは少し考え物だったりもします。この写真でいえば窓の傷なんかは、この写真においてなくても構わない部分かなとは思います。

α7R + SIGMA 40/1.4 DG HSM| Art SS:1/400, F:5.6 ISO:250, Capture One 22現像

 40mmという画角は一般的な画角かと言われるとそうではないでしょう。50mmほど何かにフォーカスしている訳でもなく、そして28mmのように広く写すような画角でもありません。このように駅のホームで鉄道を撮るとき、狭いホーム、他のお客さんもいるという状況ではなかなかその全面を写し撮ることは難しい。というのが正直な感想です。この時はもう少し広いレンズに替えておけばよかったなと思ったのでした。しかしながら、これはこれで悪くはないかなと思える写真が撮れたのも事実。

F1.4の自由

 これまで使っていた40mm付近のレンズというのは、開放F値が2.8。一方でこのレンズは開放F値が1.4と2段も明るいレンズとなっています。ということはその分被写界深度の浅い写真が撮れる。ボケを生かした写真も撮れるようになるし、暗い場所でもそれほど感度を上げずに写真を撮れるようになるということ。

α7R + SIGMA 40/1.4 DG HSM| Art SS:1/60, F:2.0 ISO:800

 自由があるということは、そのぶん考えるべきことが増えるということでもありますね。この写真なんかで言えばF値をもっと明るくしてしまえば、ボケボケで状況もよく分からないような写真になってしまうところでしょう。そこをコントロールする面白さ、というのは開放F値が小さくなることでより大きくなったように思えます。

α7R + SIGMA 40/1.4 DG HSM| Art SS:1/80, F:1.4 ISO:1250, Capture One 22現像, モデル: Nanashiさん

 一方で、こういったナイトポートレートにおいて、開放F値が明るいことで感度を上げずに周辺光だけで仕上げることもできるというのは一つ、自由度が高くなったと言えるところでしょう。手振れ補正が優秀になったとはいえ、こうした写真を撮るにあたっては極端にシャッタースピードを遅くすることはできないですからね。

α7R + SIGMA 40/1.4 DG HSM| Art SS:1/500, F:2.0 ISO:100, モデル: 漁網王カイ

 ナイトポートレートではなくとも、状況が分かる程度に、そしてそのボケがうるさくない程度に被写界深度をコントロールする自由だって手に入れることができる訳です。もっともこれについては絞り値だけでなくとも工夫のしようがある部分ではありますが、最も使いたい焦点距離においてその自由を手に入れることができるというのは大変ありがたいものがあります。

とにかく自分が使いたい焦点距離だから

 このレンズを買ってからというもの、どんなに重量が増えようと、カメラを持っていく以上は必ず持ち歩くレンズとなっています。一番しっくりくる焦点距離のレンズを持ち歩いて、スナップを撮る。あるいはポートレート撮影に挑む。様々な場面でこのレンズの出番があります。スナップ向きのレンズかと言われれば否。間違いなくもっと軽いレンズを選ぶべきでしょう。

α7R + SIGMA 40/1.4 DG HSM| Art SS:1/1600, F:4.0 ISO:100, Capture One 22現像

 それでもこのレンズを持ち歩いている理由、それは単に自由をくれるレンズだから、自分がしっくりくる焦点距離においてあらゆる表現の自由をくれるレンズだから、という一言に尽きるのかもしれません。このレンズを買うときも、多少悩んだとはいえ、多くの時間は金銭的な理由に悩んだだけであって、40mmという焦点距離について悩んだ訳でも、その狂気的な重量に悩んだ訳でもありません。好きな焦点距離で好きなように撮れる、そういう意味でこのレンズを買ったことに後悔はまったくありません。

α7R + SIGMA 40/1.4 DG HSM| Art SS:1/160, F:2.0 ISO:160, Capture One 22現像, モデル: Nanashiさん

 恐らく今後ともこの40mmのレンズのお世話になることでしょう。このレンズでしか得られない栄養があるとでも言うべきでしょうか。もっとも、万人にオススメするようなレンズではないことは確かであり、もしこの記事を読んで欲しくなったなどというありがたいことがあるのであれば、まずは現物を見てみることをお勧めします。この重量、大きさというのは、その取り回しはもちろん、鞄を選ぶことになるので。

 しかし、このシネマレンズというものに触れて、少し映像とかやってみたくなったのも事実。なにかのタイミングでやってみましょうかね。